「タブレット学習 ホントにこのままでいいの?!」

2026年7月16日(木)開催の「タブレット学習 ホントにこのままでいいの?!」にオンライン参加しました。(生活クラブ運動グループ 日野地域協議会主催)。
講師は大阪教育文化センター事務局次長の田中康寛さん。教育DXや海外のデジタル化事業にも詳しく、教員向けの講演会なども数多くおこなっています。
2019年に文部科学省が提唱したGIGAスクール構想は、「1人1台の学習端末」と「高速大容量の通信ネットワーク」を二本の柱に掲げ、ICT環境を全国の学校に整備活用しています。2030年からは正式にデジタル教科書が導入されることが決まるなど、子どもたちとデジタル機器との距離は縮まるばかりです。こうした環境は子どもの健康や学力にどんな影響を与えるのでしょうか。
田中先生から諸外国でのデジタル教育の実施例をもとに、日本で実施していくうえでの注意点などを伺いました。
<スウェーデンのアナログ回帰>
デジタル世界一を掲げ、2014年には一人1台端末を実現したスウェーデン。就学前の子どもたちにもデジタル機器を使わせたり、紙の教科書を廃止したりするなど、デジタル教育を推進していました。しかし、2024年にはデジタル機器による子どもの発達阻害が深刻であることを理由に、学校での電子機器の使用について見直しを行っています。方針を転換した原因は主に3つ挙げられています。
① 数学、読解力が急激に低下
② 運動能力が低下
③ 交わり、共同が低下
① スウェーデンで最大の研究教育機関であるカロリンスカ研究所は「デジタル機器が生徒の学習を向上させるのではなく、むしろ妨げるという明らかな科学的証拠がある」と声明を出しています。経済協力開発機構(OECD)が実施する「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)によると、かつてこの調査で上位にあったスウェーデンの成績は、2022年には数学と読解力で大きく落ち込みました。
②運動能力については、多くの生徒がハサミを使えないなど、細かい運動能力が加速度的に低下。幼稚園の子どもがハイハイを練習しなければならないという状況。子どもは転べば転ぶほど運動能力が育つといわれているように、小さいときにたくさん体を動かして基本的な運動能力を形成することが大切であるにも関わらず、スクリーンを見る時間が長すぎ、座りすぎという状況が運動能力を低下させています。
③交わり、共同が低下。コミュニケーション能力の低下が顕著。スウェーデンの「教室の規律は、欧州最悪」と言われ、先生の話を聞いていない割合は世界1位となっています。幼稚園での暴力も増加し、「ダメ!」という言葉を聞いた時など取るに足りない理由でシャベルで殴るなど、「こうした状況に恐怖を覚える」と教育大臣が発言。自分の気持ちを言葉で表現できないため、暴力でしか訴えられない子どもが増えているといわれています。
2024年1月、スウェーデン政府は、学校内での携帯電話以外の電子機器の使用について声明を発表。生徒の基礎的な読み書きの能力の向上のためには紙の教科書やノートなどのアナログ機器が最も有用で、デジタル機器による学習補助は適切な年齢になってから教育に導入することが重要とし、生徒がスクリーンを見る時間を減らすことを促すとしています。教育現場がデジタル教材を採用する際にはその必要性を十分に検討することが大切であると求めています。
<デジタル教育の課題>
ノルウェー、デンマーク、フィンランド、ニュージーランド、オランダ、アメリカ、シンガポールなどのICT先進国でも「読み・書き・計算能力、運動能力、人間関係能力の深刻な低下」といった共通した課題があります。
ユネスコの「2023 年グローバル教育モニタリングレポート」という、ICT教育について分析した報告書は、世界各国の利用実態と問題点、課題を明らかにし、各国政府の「適切な管理と規制の欠如」に対して警鐘を鳴らしています。「1人1台端末は衰退している」「教育効果についての確固たる証拠はほとんどない」「教育制度がほとんどない場所においては意味があるが、従来の教室での教育より新たな効果はない。」といったメッセージとともに、企業の誇大広告に惑わされないようにと指摘しています。
また、低年齢からデジタル機器を利用することは、デジタルリテラシーを育てるために必要だという考え方があります。こちらも2013年と2023年の調査によると、情報リテラシーの習熟度レベルは増加しませんでした【ICILS 2023(International Computer and Information Literacy Study)】。急いで使ったところでリテラシーが高まるのではなく、デジタルスキルの向上にはまず、十分な読解力と読み書き計算能力が必要だということが分かっています。
<デジタルを「子ども任せ」にしてはならない>
世界各地の教育のデジタル化・ICT化に対して、大きな見直しの流れが広がっており、このまま推進していくにあたり、デジタル化先進諸国の経験からしっかりと学ぶことが重要だと田中先生は話します。留意しなければならない点を先生のレジュメからまとめました。
①「はじめにICTありき」で進めるのではなく、「はじめに子どもの成長・発達ありき」で、教育効果や成長・発達への影響をしっかりと見定めながらすすめること。
②乳幼児期。五感を通じたインプット・アウトプットの豊かな体験が脳の発達には極めて重要であるため、慎重に扱うこと。人間の脳は、特に低年齢期に、全身の五感から受け取った感覚刺激に対応して、能動的な行動を可能にする新たな回路を脳内に形成しながら成長する。
③小・中学校期。対面でのやり取りを大切にし、人間関係を形成していく力をしっかりと育むことが重要。デジタル機器の使用は脳の発達段階を踏まえ、基本的な脳の回路が形成される具体的操作期から抽象的な思考を発達させる形式的操作期に移り変わっていく10歳~12歳ぐらいまでは使用を控えることが重要。
④中・高校期。書くこと・話すことを大切にしながら、学びを広げ・交流を広げる上で、活用が可能。しかし脳の前頭前野が発達過程にあり、自らを制御する力も発達段階にあるため、ネット・SNSの依存性・中毒性など、その危険性をしっかりと学び、自己コントロールできる力を育むことが重要。
世界の共通する教訓は、<デジタル機器を「子ども任せ」にしてはならないこと>です。子どもが使いたいだけ使わせるという使用方法は、結局は子どものためにはならないことがすでに明らかです。いかに企業の広告等に惑わされず、子どもたちがICT機器との適切な距離が保てるかどうかは機器を与える大人の力にかかっています。子どもの育ちをデジタル機器任せにしないよう、引き続き注視していく必要があると思いました。(会員:スエナガ)
