「リベラル保守という可能性」中島岳志さん講演会報告

東京・生活者ネットワークで1月30日、「2020年新春の集い」を開催しました。
第1部で中島岳志さん(東京工業大学教授)による「リベラル保守という可能性」と題した講演 を行いました。

中島岳志さん

●政治にかかわると左か右に分けられるけど、生活者ネットはどっち?
自民党が右なら、原発や憲法改正、遺伝子組み換え食品など、自民党政権によく反対するから生活者ネットは左?でもなんとなくピンとこないと感じていました。中島さんのお話を聞いて、生活者ネットワークはまさに「リベラル保守」というのがぴったり!と思いました。

中島岳志さんは、右か左かではなく、「価値」と「リスク」のマトリクスで政治を読み解きました。
縦軸に「リスク」
リスクの個人化・・・自己責任 小さな政府
リスクの社会化・・・セーフティネット強化 大きな政府 社会主義
横軸に「価値」
リベラル・・・ 寛容 多様性 互いを認め合う
パターナル・・・ 上が決めて下に介入する 価値の押し付け

するとこれまでの「左派:リベラル・革新」vs「右派:保守」といった対立軸ではない、4つの象限があらわれ、その象限で政治を読み解いていきます。

マトリックス

●4つの象限から自民党政治を読み解くと
自民党でも時代とともに変化していることがわかります。

日本列島改造論を提唱し登場した田中角栄は、公共投資や福祉政策を掲げ再配分に力をいれました。第Ⅰ象限(右上)。

経済成長にともない都市化が進むと、自民党は第Ⅱ象限(左上)へ移行します。大平、宮沢などが登場しました。

その後、橋本、小泉によって第Ⅲ象限(左下)に。構造改革、聖域なき規制緩和が進みました。

そして安倍政権で第Ⅳ象限(右下)へ。「自己責任」という名目でリスクは個人に引き受けさせ、歴史修正主義など価値の押し付けと介入が顕在化しています。日本は現在「小さすぎる政府」です。OECD諸国で見ると、租税負担率は意外と安く、公務員の数も少ないのです。

●リベラル保守という可能性
では、望ましい政治のあり方はどれか。それは第Ⅱ象限で、これを担うのが「リベラル保守」だ、と中島さんは言います。

リベラルって?
16世紀ヨーロッパの宗教改革期、カトリックとプロテスタントの、価値観をめぐる対立が30年戦争に発展しました。終わりの見えない戦争の経験でわかったのは、価値を一つにはできないこと。価値の押し付け合いでは問題は解決しない。お互いの違いを認め合う思想が生まれました。

「リベラル」を訳すと自由主義です。リベラルは、自由という概念として発達していきますが、異なる他者を容認するという考えが内包されています。

保守って?
リベラルと保守は相性がよいといいます。
左翼といわれる思想は、「人間の理性によって、理想社会を作ることが可能」と考えているといいます。
保守は、「人間の理性によって理想社会を作ることなど不可能である」と考えます。人間は、どうしてもエゴイズムを捨てることができず、横暴な要素を持っています。人間とは、どこまで行っても不完全な生き物であり、だからいつまで経っても理想の社会など出来はせず、常に葛藤に満ちている。だから、多様性を認め、葛藤としっかり向き合いながら、寛容な姿勢でよりよい答えを探し続けていきます。

「リベラル保守」というのは、寛容と自由を基盤に置き、かつ「大切なものを抱きしめる」のではなく「大切なものを守るために変わる」政治思想であって、改革への可能性を掲げ、自らも変わることを恐れない。
生活者ネットワークは「リベラル保守」ですね!

●なんで投票に行かないの?
日本では多くの人々の政治的無関心、低投票率が続いています。この理由を中島さんは、新自由主義によって生まれた自由競争により、マーケットが決定権をもつようになり、政治の領域が縮小されたからだといいます。なるほど世の中のことを決めるのは、お金(市場)であって、政治家ではない、議員は誰がなってもあまりかわらないと、どこかで感じているところがありました!

でも、このまま、新自由主義による競争と自己決定、続く自己責任を強調する社会にしておくと、国や、地域、年齢層が分断され、格差が広がり、つながり支えあうセーフティネットがなくなっていきます。

●「熟議」と「闘議」のラディカルデモクラシー

2・5・3 有権者の分類です
2→野党支持 5→はっきり支持を持たない人(浮動票) 3→与党支持
つまり与党は政治に無関心で投票に行かない人が多いほど有利なのです。
社会を変えるためには、無関心ではダメなのです。
投票率を上げるためには「熟議」と「闘技」のラディカルデモクラシーを起動させることが必要といいます。

2017年立憲民主党ができた時、枝野さんは「立憲民主党はあなたです」と言い、みんなでよく話し合い考えることを訴えました。

山本太郎さんは、闘技デモクラシーを街々で展開しました。「消費税廃止」という積極的でラディカルな争点を提示し、預貯金ゼロの、有権者の3割の層に向きあい、その声を直に聞き、その声を身体に取り込み、肉体化して話すことを中島さんは評価していました。

中島さんは、ローカルから第Ⅱ象限で活動してきた生活者ネットワークにはがんばってほしいといいました。また、ネットのルール運用もふくめ、自ら変わることへの柔軟さを求めたいとアドバイスをいただきました。

福生・生活者ネットワークも、「熟議デモクラシー」を目標に、目の前の人の声を聞くこと、自分の正しさだけを主張するのではなく、時に変わっていく覚悟も持ちながら、生活者に届く言葉を発信することを大切に活動していきたいと思いました。

中島さんは、子育ても積極的に担っているそうですが、妻が子育てをしても褒められないのに自分がやると褒められるのはおかしいともおっしゃって、これから子どものお迎えですと言って、急いでお帰りにないりました。

第2部「市民活動団体アピール」
議会/自治体関係各位メッセージに加え、NPOや市民活動団体によるアピールタイムがあり、交流と連携を深める場となりました。

• 沖縄への偏見をあおる放送をゆるさない 市民有志
東京MXテレビ放送の「ニュース女子」が沖縄の米軍基地建設反対運動を誹謗中傷したことに対し、MXに訂正と謝罪を求めてきました。お詫びの見解を発表しましたが、現在も「ニュース女子」制作をやめていません。抗議の活動を展開中です。

• NPO法人フェアスタートサポート
児童養護施設や自立援助ホーム及びシェルターなどの施設に入所し社会的養護の下で生活を営んでいる子どもたちへ、将来の自立へ向けた支援を行い、すべての子どもたちが就業に関して平等で公平な機会を与えられる社会の創出に寄与することを目的に活動しています。

 

・羽田問題解決プロジェクト
羽田新ルート下全域の羽田空港機能強化問題に対する関連市民団体や個人が集まっています。 「都心低空飛行は無謀である」という一点でつながり、影響地域の市民や議会他、それぞれの立場の皆さんの多くが納得するかたちで新ルート問題が解決できることをめざしています。
品川区では「新飛行ルートの賛否を問う区民投票」の実施を目的に条例制定を求める直接請求運動をしています。
渋谷区の住民グループ(渋谷区の空を守る会)は、国土交通省を相手取り、新飛行ルート導入の決定取り消しを求める行政訴訟を近々に起こす準備をしています。

• 世界遺産「サンティアゴ巡礼道」プロジェクト
桜美林学園キリスト教センターがサポートする、世界遺産「サンティアゴ巡礼道 プロジェクト」(プロデュース:桜美林大学特任教授でフォトジャーナリストの桃井和馬さん)は、キリスト教の聖地であるスペイン、ガリシア州のサンティアゴ・デ・ コンポステーラへの巡礼路を歩く旅に学生らがチャレンジします。歩くことで自らと向き合った経験や、自身の旅の記録を発信しています。

• FFFT(フライデーズ・フォー・フュ-チャー東京)
2019年3月15日、「 Fridays for Future」運動が呼びかけた世界規模でのストライキに、東京では若者を中心に125名が参加しました。昨年末には、台風など大規模災害を引き起こす気候変動への関心が高まる中、「Fridays For Future Tokyo」ムーブメントに参加しているメンバーが中心となって、東京都が「気候非常事態宣言」を出すよう求める請願運動を展開しました。請願は(紹介議員:都議会生活者ネット山内れい子都議)、環境政策委員会で審査されたものの継続審査とされ採択には至らず、残念な結果でした。地球温暖化をはじめとする気候変動に警鐘を鳴らし、政府や自治体に対策を求め元気に行動していきます。

フライデーフォーフューチャート東京のアピールをした学生さんたち

• 香害ゼロプロジェクト
香りの強い柔軟剤などで、「化学物質過敏症」を発症してしまう人もいて問題になっています。香害などの環境問題を考え、安全で健康的な生活を送るための啓発活動として講演会や勉強会を開催しています。また、子育て世代に対して、安全な生活をおくるための支援活動を行っています。
発表者のひとりは自身が化学物質過敏症を患い、大変苦労し努力して症状を緩和させたそうです。その経験を生かし化学物質過敏症の方のアドバイザーのお仕事をしています。お話を聞くと、いつも大勢人が集まる場では具合が悪くなることが多いのに、この「新春のつどい」では、大丈夫だとおしゃっていました。ナチュラル派せっけん派の人が多い集まりだからでしょうか。

• ゲノム編集食品NO!――遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン
科学ジャーナリストの天笠啓祐さん(遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表)から報告をいただきました。
新しい遺伝子操作技術であるゲノム編集技術を利用してつくられた食品が、安全性審査もされないまま、表示もないまま、私たちの食卓にのぼる可能性が高まっています。日本消費者連盟と遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンは、「すべてのゲノム編集作物の栽培を規制し、食品の安全審査を行い、表示することを求める」署名提出緊急院内集会を他団体と開催しました。ゲノム編集については、海外の研究者が問題点や危険性を指摘しています。院内集会では、全国から集まった署名を提出し、厚労省及び関係省庁にゲノム編集作物・食品の厳しい規制を求めました。

新春の集いには、都内34の区・市にある地域の生活者ネットワークから、所属する42人の女性議員が参集しました。